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2017年03月13日 (月)コラム

労働時間とは?

意外なことに労働時間の定義はどこの法令にも定めがありません。法令に定めがない場合には過去の最高裁判例によって定義づけられますが、労働時間については三菱重工業長崎造船所事件 最一小 平12.3.9判決がベンチマークされ、下記のとおり判示されています。

労働基準法第32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めの如何により決定されるものではないと解するのが相当である。
そして、労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

つまり、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」であって、実労働時間のほか、「使用者から義務付けられ、これを余儀なくされた準備行為時間」も原則として労働基準法上の「労働時間」に当たるとされているのです。

労働時間性の判断基準

労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれた時間」と定義されていますが、実務の現場では様々なフェーズで労働時間に当たるかどうかに迷いが生じることがあります。労働時間性の判断基準は下記の通り整理することができます。

労働時間性の判断基準
手待時間指揮命令下にあって就労のために待機している時間であり労働時間
準備時間指揮命令下に行われる本来の作業に付帯して行われる通常必要不可欠な準備や整理時間であれば労務提供義務と不可分一体性があり労働時間
教育訓練「労働者が、使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益な取り扱いによる出席の強制がなく、自由参加のもとであれば、時間外労働にはならない」(S26.1.20基収2375号)
健康診断「労働者に対して行われる一般健康診断は、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間は当然には使用者の負担すべきものではないが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営に不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を使用者が支払うことが望ましい」(S47.9.18基発602号)
出張の往復時間「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」(S23.3.17基発第461号、S33.2.13基発第90号)
仮眠時間「本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、…(中略)…本件仮眠時間は全体として労働から解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。」ため労働時間。(大星ビル管理事件 平14.2.28最高裁第一小判決)

法定労働時間と所定労働時間のちがい

労働時間には、法定労働時間と所定労働時間に大別することができます。
法定労働時間とは、文字通り、法律に定められた労働時間をいいます。つまり、労働基準法第32条に定められた「1週40時間(特例措置対象事業場は週44時間)、1日8時間を超えてはならない」とされている時間です。
他方、所定労働時間とは、法定労働時間の範囲内で企業が独自に定めた労働時間をいいます。つまり、企業は、法定労働時間内であれば、1日7時間、7時間30分など就業規則によって定めることができるのです。
そのため、法定労働時間と所定労働時間の間に乖離ができることがあります。たとえば、一日の所定労働時間が7時間の場合、法定労働時間との間に1時間の乖離時間が生じます。これを通常「法内残業」といい、この間の賃金の支払いには割増部分(0.25)は不要です。

36協定とは?

労働基準法は行政取締法規であり、これに違反すると刑事罰が科せられます。したがって、法定労働時間や法定休日に労働させると、労基法32条に違反し「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。
しかし、使用者と過半数組合(過半数労働者代表)との間で「時間外労働・休日労働に関する協定」を締結し、所轄労働基準監督署長に届出を行うことで、法定労働時間や法定休日に労働させても罪に問われない免罰的効果が生じます。この協定は労基法36条に規定されていることから、「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。
36協定で協定する時間外労働できる時間の決定は労使の自治に委ねられていますが、労使間の力関係から使用者の思惑がはたらき、不当に長く設定されることが危惧されます。そのため、時間外労働時間には限度時間が設けられています。

一般労働者一年単位の変形労働時間制適用者
1週間15時間14時間
2週間27時間25時間
4週間43時間40時間
1ヶ月45時間42時間
2ヶ月81時間75時間
3ヶ月120時間110時間
1年間360時間320時間

また、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付き協定を締結することによって、限度時間をさらに延長することができます。
特別条項付き協定の要件は、下記のとおりです。

①「特別の事情」は「臨時的なもの」に限られる。

「臨時的なもの」とは、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として年の半分を超えないことが見込まれるものを指します。限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情は、限度時間以内の時間外労働をさせる必要のある具体的事由よりも限定的である必要があります。

②原則としての延長時間を延長する場合に労使の手続について定める。

労使当事者間において定める手続は、特に制約はありませんが、労使当事者が合意した協議、通告その他の手続になります。また、この手続は、一定期間ごとに特別な事情が生じたときに、必ず行わなければなりません。所定の手続を経ることなく、原則となる延長時間を超えて労働時間を延長した場合は、法違反となります。 労使当事者間において取られた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らか にしておく必要があります。

③原則としての延長時間を延長する一定の時間(特別延長時間)を定める

特別延長時間については、限度となる時間は示されていませんので、労使当事者の自 主的協議にゆだねられますが、過重労働による健康障害を防止する観点から、長時間労働とならないよう配慮が必要です。

④限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を協定します。

限度時間を超えて働かせる一定の期間(1 日を超え3箇月以内の期間、1 年間)ごとに、割増賃金率を定めます。その際、法定割増賃金率の下限(25%)を超えるように努める必要があります。

⑤届出方法は、特別条項に関する労使協定書の写しを添付するか、又は、36 協定届の余白に記載する。

特別条項をどこに記載するかの制約はありません。別添でも余白でも構いません。

定額残業手当の考え方

定額残業手当は、あらかじめ一定金額の時間外労働手当を織り込み済みで支払う手当をいいます。
この定額残業手当のスキームを違法性なく運用するためには、下記の3つの要件を満たす必要があります。
① 所定内賃金(基本給など)と時間外労働見合いの手当が区分されていること。
② 時間外労働見合いの手当の残業時間数があらかじめ明示されていること。
③ ②で示された残業時間数を超過した場合には別途時間外労働手当が支払われていること。
これらの要件がひとつでも具備されていない場合には、定額残業手当全体のスキームが否認されることになりますので、運用に当たってはこれを遵守することが前提となります。
また、定額残業手当をめぐっては、あたかも時間外労働手当が含まれていないかのような表記を用いて、新規学卒者に誤解を与える求人広告が少なくないことから、若者雇用促進法においても定額残業手当の要件を厳守するよう求められております。

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