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2019年03月26日 (火)コラム

海外赴任者とメンタルヘルスについて

HRプラス社会保険労務士法人の三枝です。

今回は、長期海外赴任者のメンタルヘルスについて焦点を当ててご紹介したいと思います。

①長期海外赴任では、赴任者は必ず渡航先国の文化の負の面を必ず目の当りにする

海外旅行、出張と聞けば、一過性の期間の決まりがあるものなので、日本と渡航国との間で、負の面を比較することはありませんが、これが長期間に渡る赴任となると、引越の喧騒感が落ち着く大体3カ月から半年を過ぎたあたりから急激に渡航先国の文化の負の面に目が行きがちになり、精神的な負荷が大きくかかります。

特に、家族帯同で渡航を検討している場合、仕事で行く赴任者本人よりも、家にいることの多い配偶者、日本人学校のない地区に渡航する場合には、子供のストレスが大きく出る傾向にあります。これは、仕事の付き合いがある程度外部に求められる赴任者本人とは違い、生活上、家族の方は、見知らぬ一見の現地の人とコミュニケーションを図らなければならない機会が多いためです。

仮に、現地の言葉がある程度話せたとしても、日本の常識は世界の非常識、世界の常識は日本の非常識といったように文化面での差異に出会うことは必至で、途方に暮れることもしばしばあります。赴任者も帯同家族も、一度、日本で培った常識を崩して、現地の常識を再構築する時間がある程度必要になります。この適応する期間において、現地で相談できるところを確保しておくことは、赴任者の不安を取り除く上で非常に大きな役割を果たします。

仮に、赴任者や赴任者家族が重大なメンタル不調をきたした場合、理想としては、現地に日本語で対応してくれる医療機関があることが望ましいですが、難しい場合は、医療通訳ができる通訳者の手配等をして、日本語で現地の外国人向け医療機関にかかれる体制を整えておくと良いかもしれません。赴任者自身や赴任者の家族が自覚症状を外国語で伝えることは、日常会話の域外の単語が多く、普通の会話に支障がなくとも意志疎通が困難となることもしばしばあります。また、要投薬治療となった場合には、日本語でもよく理解できない処方される薬、診察内容等の専門用語の説明を聞いて、それを外国語で理解できるケースの方が稀有であることも強く認識するべきです。医療機関にうまくかかれず、症状が重篤化することもありますので、リスクヘッジのためにぜひ検討してみてください。

医療機関にかかってもうまく適応できない方はどうしても出てきます。その場合には、緊急の人事配置転換も含めた対応が必要となってくることにも留意しましょう。

 

②赴任者本人も帯同家族も現地文化に適応する(赴任後1年程度)

海外生活が長くなってくると、現地の常識がうまく構築されていきます。大体1年くらいを過ぎると諦観期と呼ばれる現象が出てきます。これは、渡航国では「これくらいなら普通だ」「しょうがない」といった感じで日本では有りえない事象をうまく理解してあらゆる事態をうまく流せるようになっていきます。

例えば、「仕事で、先方との契約を土壇場でひっくり返された」という事態になった場合、担当者では話にならないから、とりあえず、その上長に直談判したら、契約締結の方向に向かった。「家庭内で水周りの事故に遭遇して修理業者が来ない」という事態に陥った場合、「修理は来ないし、しばらく盥で対応するか」と適応していくことも、何の疑問も持たなくなってくる状況等の様々な場面で不満や不便を受け流せるようになっていきます。

子供は現地の学校に慣れて、友達ができて、配偶者の方も近所の交流が増えてくるとだんだんと不満や抵抗感が薄れてきます。この時期に至ると長期赴任においても安定的に過ごせる状況となります。逆に、日本へ一時帰国することは、海外旅行に行くような高揚感に包まれる感覚となります。この文化の適応期が一番、赴任者の人事管理の上では波風が立たない時期になります。

 

③海外赴任期間が長期間になった時の状況(大よそ3年超えたあたりが多い)

ここで、海外赴任者には大きな転換期があります。主に海外渡航先国の日本人コミュニティーの中に2つのグループが分かれ出すのもこのあたりからです。

日本に帰りたくないというグループと日本に帰りたいというグループに分かれてきます。

現地に適応したり、家族の近所付き合い、子供の教育環境のことを考えたり、日本社会より渡航国の社会の環境の方が良いと言って、無理に帰りたいと思わないグループと、そろそろ、日本に帰って落ち着きたいという帰りたいグループの差が明確になってきます。

 

一例として、

日本へ帰国したくないグループ

(こちらは割と自己都合が多いです。)

(家庭要因)

・子供の進学先が赴任先国で落ち着いてしまった

・現地で配偶者を見つけて国際結婚をしてしまった

・現地の環境に馴染みすぎて、日本に帰る必要性を感じなくなった など

 

日本へ帰国したいグループ

帰りたくても帰れないパターン(こちらは割と会社都合のことが多いです。)

(会社要因)

・事業、プロジェクトの期間が予定より長引いたため

・赴任の後任が見つからず、ずるずると赴任期間延長する など

 

一刻も早く帰国したいパターン(こちらは割と自己都合が多いです。)

(家庭要因)

・子供の進学先が日本国内で決まってしまった

・子供の教育環境が日本の方が良いと判断した

・家族に介護を要する者が発生した など

 

若年層の研修生制度等で1年程度の海外赴任では、あまり表面化しない問題ですが、義務教育を超えた年齢の子女を抱える家庭、要介護の親族を抱える世代、特に40~50歳代の海外赴任者ではこのグループ差が顕著に焦燥感も大きくなります。

特に、帯同者の進学が絡む問題になると、高校への進学においてが一番不平等感を感じるところとなります。日本国内では公立高校の学費実質無償化が進む一方で、海外での進学となると現地校に通わせるかインターナショナルスクールに通わせるか、または日本国内や在外の日系の全寮制高校への進学、日本国内の全寮制高校への進学となるところで従業員の経済的負担が学費・寮費をみても、中学生子女の学費の数倍に膨れ上がり、国内勤務者家計に占める子女の学費の負担割合と比べて数倍の格差が発生します。赴任者側の不満として感じやすいところは、国内の公立校に進学させれば余計な経済的負担をせずに済んだが状況が許さないといったパターンで揉めることが非常に多いです。

日本人学校で高等部が設置されているのは、現状、上海のみで、その他の地域では、高等部の設置はありません。子女のみを帰国させて公立高校へ進学させる場合、国内の祖父母等、保護者が同居で住んでいる都道府県でしか出願を行うことができず、赴任者が帰国予定地でかつ親族が誰もいないところで子女の公立高校の出願を行うことはできません。また日本国内の高校の中途編入試験については要件が非常に厳しく、学年が上がるたびに、受入れる日本国内の学校、転校先学校もなくなるのが現状です。

現地の学校に通わせることが決まった場合、渡航先国によっては、入試とは別に、中等教育卒業試験、高等教育卒業試験を課す国があります。渡航先国の言語が不自由と認められる子女の場合、学年を下げる、試験年度を繰り下げる等の措置が取られますので、子女の進路が不安定になるケースもあり、子女の教育環境が安定しないリスクもあります。

多くの企業では、この問題を回避するため、子供が義務教育を修了することが判明した段階で、赴任者の赴任期間が赴任帯同者の義務教育期間を超えそうになった段階で、家族を日本へ戻す措置、又は人事考課の時に海外赴任対象者から除外する措置を採用することが非常に多いです。

仮に赴任延長をさせる場合、本人の単身赴任への切り替えを認める措置、子女教育手当の支給措置、単身赴任の別居手当等の措置等、人事側ではうまく対応しなければ、日本国内との従業員と格差を感じることが多いため、従業員の不満が爆発することもあります。仕事以外でもストレス過多になる傾向が多くなりますので、差配に注意が必要です。

また、あまりに長期にわたる海外赴任の場合、赴任者本人自体が日本側に自分の籍がまだ残っているのであろうかと不安・焦燥感に感じる方も少なくありません。適宜、一時帰国時等に人事担当者の方と面談の機会を設けること等の措置をとることをお勧めします。

 

④長期海外赴任者が帰国した後の日本社会への再適応

海外赴任者と帯同者が海外から帰ってくると待っているのが、日本社会への再適応です。長期間の赴任になればなるほど、日本の社会的システム、文化習慣についていけなくなることが多くなります。会社の規定や社内決裁の方法、採用しているシステムが大きく変更になっていた、会社のメンバーも知らない人が増えたなどの社内的要因の他に、社外においても、日本国内にずっと居住していた人なら分かることでも、海外からの帰国者は些細な事項で戸惑ったりします。

帯同者の場合についても同じで、特に、帰任地が赴任前の事業所と所在が離れている場合、新たな近所関係の構築、子女の場合で、現地校に通わせていた場合には、日本語のフォローアップ、各科目特に理数系科目や社会科目では補習も必要になるケースがあります。

日本人なので、日本国内のことは分かり切っているだろうというスタンスでいくと、最後に、ここでメンタル不調をきたすことがあります。特に、初めての海外赴任からの帰国者には、この傾向が強く出ますので、注意が必要です。

実は、この海外からの帰国者の日本社会の再適応について扱う書籍や資料、研究資料は前出の①~③に比べて発表件数が非常に少なく、日本人が日本社会に適応するのは当たり前だという手前、関心の低さがうかがわれます。しかしながら、日本人が日本社会への逆カルチャーショックを受ける事実があることに注意はして、対応をするようにしましょう。

 

まとめ

赴任が長期間に渡れば渡るほど、赴任者、帯同家族にはカルチャーショックの波が赴任時を帰国時に大きなものが来るということ、また、赴任期間中にも日本国内の情報については、インターネットが発達したとはいえ、圧倒的に情報が不足するという事態があるということを念頭に置き、赴任者の方への対応を頂ければ幸いです。

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