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2021年05月13日 (木)コラム

【IPOコラム】第1回「IPOにおける労務リスク顕在化事例」

こんにちは。HRプラス社会保険労務士法人を主催しております、特定社会保険労務士の佐藤広一と申します。当職からは、『IPO準備会社のHR(人事労務担当者)が担うべき役割と実務』をテーマにコラムを連載してまいります。第1回は「IPOにおける労務リスク顕在化事例」です。

1999年11月に成長企業向けの市場である東証マザーズが開設されて以降、スタートアップベンチャー企業におけるIPOに対する機運は大きく高まり、HRプラス社会保険労務士法人においても労務デューデリジェンス(労務DD)や上場審査に耐えうる諸規程の整備、労務管理の構築に向けたお問い合わせが増えています。

東証マザーズ開設とちょうど時を同じくして、大手広告代理店において過労自殺事件が発生し、バブル崩壊後の労働者における権利意識の高まりと相まって、それまであまり重要視されてこなかった労務コンプライアンスが注目されることになり、その後、各種ハラスメントやメンタル不調者への対応、時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金といった働き方改革の潮流が生まれたのです。

こうした経緯から、IPO準備におけるスコープ(重要な論点)に労務コンプライアンスが取り上げられるようになったことは自明であり、労務管理に対する準備を軽視し、対応を誤ったことにより上場審査がストップし、上場承認が延期され、あるいは上場自体を断念せざるを得ないケースが続出することになったのです。

たとえば、労務コンプライアンスへの対応が遅れ、上場が延期、あるいは断念となった実例として次のようなものが挙げられます。

・上場申請直前期に36協定未締結事業所の存在が発覚

・上場申請直前期に労基署より是正勧告

・上場申請中にセクハラ事件が発生

・上場承認後に「パワハラが横行している」「経理が不正をしている」と、東証、主幹事、監査法人に同時多発的投書

つまり、労働法に対する知識が不足し、労務管理への意識が希薄であったために上場申請直前期になって労務コンプライアンスを毀損する事実を指摘される事例が続出したのです。

また、法令違反もさることながら、IPO準備の実務において最もスコープすべき論点は「簿外債務」の解消です。簿外債務とは、財務諸表などの帳簿には表れない債務をいい、多額の支出を余儀なくされるリスクが内在している隠れ債務であるといえます。

たとえば、いわゆる「未払い残業代」がそのひとつです。

労働者に対して時間外・休日・深夜労働をさせた場合には、労基法37条に基づいて割増賃金を支払わなければなりません。しかし、労働時間管理が徹底されていない、あるいはそもそも割増賃金の計算式が適正でない、などの理由により、本来支払うべき割増賃金を支払っていない場合には「簿外債務」として認識され、全従業員を対象に賃金請求権の時効である3年にわたって遡及して支払いを余儀なくされることになります。この場合、金額としては数千万円にも上ることも少なくないため、IPO準備会社にとっては多額の債務がP/Lにヒットし、財務状況が大きく棄損することにより、資本政策の見直しが求められることにつながります。

そのため、IPO準備に当たっては、事前に労務DDを実施し、あらかじめ労務コンプライアンス上の問題点を可視化しておくことが必要となります。近時では、主幹事証券会社も労務DDのレポートを重要視しており、東証に対して推薦書を提出するにあたり、労務コンプライアンス上の問題の所在はどこか、ソリューションとしてどのような対応が必要か、実際に問題は解決したのか、などの確認が行われます。

労務は問題が起きてから対策を検討するのでは遅く、覆水は盆には返りません。また、厄介なことに過去に遡及することからも逃れることもできません。その意味でも、N―3期、N―2期などのアーリーステージでの労務DDが欠かせないといえます。

HRプラス社会保険労務士法人は、東京都渋谷区恵比寿に本社を置き、全国を対象として労務DDを積極的に展開し、豊富な実績のもと上場に向けた支援を行っています。人事労務領域でIPOが躓くことのないよう、早目のご相談をお待ちしております。

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