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- 2022年04月15日 (金)コラム
解雇と退職勧奨について
こんにちは、HRプラス社会保険労務法人の川口です。
今日は、解雇と退職勧奨についてご紹介いたします。
■解雇とは
労働契約を終了させる使用者の一方的な意思表示を「解雇」といいます。
解雇には、「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、懲戒解雇は従業員に非違行為があるときに懲戒処分として、労働契約を終了させることをいいます。一方、普通解雇は、従業員の非違行為の存否を問わず、能力不足、適格性欠如等により、従業員が雇用契約に基づく義務を果たす見込みがないことを理由としてなされます。
なお、労働契約の終了には、使用者と従業員の合意による「合意解約」、従業員からの一方的な意思表示である「辞職」、労働契約に基づく「期間満了」等があります。
■高い解雇のハードル
労働契約法16条(解雇権濫用法理)は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めており、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という2つの要件を満たさない解雇は、権利濫用として無効になります。
客観的に合理的な理由というのは、解雇理由が限定的に解釈されることを意味します。就業規則に記載された解雇事由は、字面どおりでは法的に有効な解雇理由とは解されず、例えば「能力不足であるとき」というのは、「能力不足であり、会社が改善に努めかつ改善の見込みがないとき」のように、解雇という重い効果を発生させるのに相応しいよう、限定的に解釈されます。
一方、「社会的相当性」とは、このように限定解釈された解雇事由に該当するとしても、一般社会における基準で判断して、解雇に当たるような重いものであるかが判断されます。日本では、長期雇用慣行があるため、裁判所はこの社会的相当性を容易に認めず、解雇が有効になるハードルが非常に高くなっていると言われています。
■解雇無効のリスク
民事訴訟により解雇が無効とされた場合のデメリットは、単に当該従業員を復職させなければならないだけに留まりません。多くのケースでは、民法の危険負担の規定に基づき、無効となった解雇により従業員が就労できなかった期間の賃金の一部又は全部を会社が支払わなければなりません。
労働関係の裁判に要する期間は近年増加傾向にあり、最高裁判所事務総局がまとめた「裁判の迅速化に関する報告書」によると、令和2年の第一審の平均審理期間は15.9か月です。第二審、上告審にまでなれば、さらに長い年月がかかることになります。
その間の賃金がどれ程になるか、リスクを想像してみてください。
■退職勧奨とは
使用者が、従業員に対して退職の意思表示をするよう勧奨する行為を「退職勧奨」といいます。退職勧奨は、従業員が自発的に退職することを誘引する行為で、解雇のように法的な効果を持つものではありません。従業員がこれに応じて退職の意思表示をすれば、そこで初めて退職の申出という法律効果が生じ、申出から一定期間が経過するか、使用者が承諾すれば労働契約は終了します。
退職勧奨による退職は、合意退職又は辞職なので、客観的合理性や社会的相当性は問題とならず、使用者にとっては解雇よりリスクが少ないため、実務上は、解雇が難しいような場合も含めて、広く行われています。
■退職勧奨する場合の注意点
退職勧奨は勧奨である限り、原則として違法となることはありません。しかし、勧奨が行き過ぎて従業員の自由意思や名誉感情等の人格権を侵害した場合には、不法行為として損害賠償請求の対象となることがあります。
例えば、退職勧奨に応じない旨を表明している公立高校の教諭に対し、教育委員会への出頭を命じて長期間多数回の面談による勧奨を繰り返す等したことが違法な退職勧奨として慰謝料4~5万円の損害賠償が命じられた事案(最高裁昭和55年7月10日下関商業高校事件)があります。また、最近では、明確に退職を拒否した後も、複数回の面談により相当程度執拗に勧奨が行われ、確たる裏付けがあるとはうかがわれないのに、他部署による受入れの可能性が低いことをほのめかすなど、退職以外の選択肢についていわば八方塞がりの状況であるかのような印象を現実以上に抱かせるものであり、また、単に業務の水準が劣る旨を指摘したにとどまらず、対象従業員の自尊心を殊更傷付け困惑させる言動に及んでいたことが違法な退職勧奨として慰謝料20万円が命じられた事案(横浜地裁令和2年3月24日日立製作所事件)があります。
いずれの事案でも、退職勧奨という性質上、従業員が退職に応じない旨を示していても説得を続けること自体は容認されています。しかし、本人の不退職の意思表示が相当強固なものであると認められる状況で、これを動揺、翻意させる目的で行われ、回数ややり方が執拗であり、言動も感情的、侮辱的であったことから自由意思や名誉感情等を傷つけたとして違法と評価されたものと考えられます。
この2つの事案に共通するのは、勧奨者の上から目線の威圧的な行為・態度です。退職勧奨に際しては、上から目線ではなく、対象従業員のプライドにも配慮し、誠意をもって説得に当たることがポイントになります。また、闇雲に勧奨を続けるのではなく、従業員の拒絶意思がどの程度強固であるかを見極めて、勧奨を続けるべきか判断する必要があるのです。
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